夜行列車

時は夕刻。天気は霧雨。睦月の終わり。夕焼けはなく、車窓は魚の内臓を思わせるどろんとした鈍い灰色に覆われている。世界の果てを駆ける列車に私は乗っていた。

地平線の向こうから徐々に炭化しボロボロと腐っていく街並みを、尾灯を灯したドブネズミのような車がノロノロと走っていく。それらはひたすら無機質でゆっくりと崩壊していた。列車はその崩れゆく世界を一定の速度で走っているのであった。

ゴォッと音を立てトンネルに入った。定期的に明滅する強い光。隣に座る老婆が干からびたベーコンのような手を掻きながら低い呻きを上げた。車内は明るいが線香のような匂いに包まれ、皆が死人のような顔をしている。胃のあたりで何かがボロっと崩れた音がした。しくしくとした痛みが広がってゆく。だが、その痛みはどこか遠くの違う誰かのもののように感じるのであった。車窓に映る自分の顔がトンネルのライトと重なり子供のように見える。唐突に理解した。痛いのは少年時代の自分であり、腹の底で静かに泣いているんだと。

再びゴォッと音を立て、列車はトンネルを抜けた。辺りは既に漆黒の闇に包まれ、遠くにハイウェイの街灯が微かに見える。私はゆっくりと目を閉じ眠りについた。ただただ、この目が覚めないことを祈りながら…。涙が一筋流れたが、直ぐにバサバサの土くれとなった頬に吸収され消えてしまった。無明の闇の中、老婆の囁く「なんまんだぶ…、なんまんだぶ…」という声を聞きながら意識はゆっくりと消えていった。